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若手ならではの発想を加えながら伝統の襷を渡したい

カタン、カタン、シュッ、シュッ—。静かな工房に心地よい機音が響きます。織り手は今泉亜季子さん。3年前に結城紬の世界へ足を踏み入れた期待のルーキーです。
結城紬は小山市や茨城県結城市など、鬼怒川沿いの地域で生産されてきた伝統工芸品。手つむぎならではのやわらかな風合いや絣文様が特徴です。農家の副業として盛んにつくられ、緻密な技によって生み出される軽く美しい仕上がりは、江戸時代に高級品として知られるようになりました。
その技は時代を経た今も連綿と受け継がれ、真綿から手作業で糸をつむぎ、絣くくりで文様を表現し、地機(じばた)と呼ばれる手織り機で仕上げる……という手法が「本場結城紬(※)」として守られています。数ある工程の一部はユネスコの無形文化遺産に登録されるほど価値の高いものですが、新しい担い手が少なくなっているのも現実です。

小山市では結城紬を伝承していくために2014年、「紬織士」の職種を設け、今泉さんを採用。大学で染色を学び、将来的に布に携わる仕事に就きたいと考えていた今泉さんは「とても恐れ多い仕事だと思いました。でも、自分なりに伝統工芸の伝承に少しでも貢献したいという思いもあり、思い切って飛び込みました」。

紬織士として研修を始めて3年目。伝統工芸士の坂入則明さん、幸子さん夫妻のもとで実践しながら学び、合間に小山市の工業振興課で結城紬のPR業務などをこなす日常を送っています。「どの工程も熟練するには最低10年と言われ、実感としてもまだまだです。生産者の偉大さを改めて感じますね」と今泉さん。今織っている反物で初めて、織りで文様を表現するための“絣くくり”に挑戦し、文様のずれに悪戦苦闘しながら杼(ひ)を進めています。

概ねの工程を覚えてきた今、さらに精進したいという意気込みは強まるばかりですが、それとともに違った面でチャレンジしたいことも見えてきたと言います。「技はもちろん、結城紬をもっと身近に感じてもらうために動かなければと思っています」。最近では、小山駅前にオープンした「おやま本場結城紬クラフト館」で、訪れた人が本場結城紬の着物を自由に着て魅力を体感できる“着心地体験”を行うようになりました。「軽い」「あたたかい」「かわいい」など、使い手の率直な意見を聞ける場でもあり、そんな場をサポートしたいと思っているのだそうです。
また、生産者同士をつないでいくことも夢。結城紬は糸をつむぐ人、染める人、織る人など製作工程が分業され、前後の作業をする人の顔を知らずに行うのが一般的です。歯車のひとつとして作業していると「この糸は織りやすい。どんな人が糸をつむいだのだろう?」などと、見えぬ相手に想いを馳せることも多々あるそう。当たり前とされてきた流れですが「それが見えるようになると、作り手のやり甲斐、よろこびは大きくなるはず。この近辺には養蚕農家も残っているんですよ」と今泉さん。そうした経験から、工程に携わる人たちが誇りとよろこびをもてるよう横のつながりを橋渡ししたいと考えています。
この3年間で織り上げた紬は7反。1反ごとに思い入れがあり、作るほどにチャレンジしたい課題が増えるという今泉さん。
カタン、カタン、シュッ、シュッ—。
杼を持つ手を進めながら、本場結城紬へ寄せる想いは深まります。

※:本場結城紬
機械に頼らず、糸つむぎから機織りまでの全工程を手作業に徹した手法で作られる結城紬を指す。広義な結城紬と差別化される。

今泉 亜季子
いまいずみ あきこ
栃木市出身。もともと布や手芸に造詣が深く、大学で染色を専攻。卒業後の進路を考える際に小山市の「紬織士」の募集を知り、本場結城紬の織士を志した。紬織士としての研修期間は4年。その後は後輩の育成や本場結城紬のPR活動も行っていく予定。目標としているのは、現在指導にあたってくれている伝統工芸士の坂入夫妻。
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